ウェブビジネスの本質

私が3年ほど前、B2C のウェブビジネスの現場に飛び込んだとき、自分では IT ビジネスをやっているつもりだった。だが、最近ようやく気がついたのは(まったく遅いのだが)ウェブというのは、実はメディアそのものだ、ということだった。紙や電波のかわりに、インターネットを使うだけのメディア産業なのだ。IT は道具にすぎず、本質ではない。本質はメディアであるということだ。それが証拠に、ビジネスモデルが、旧来のメディアとまったく同じである。
(とりあえず、ここでは、アマゾンや楽天市場のような、リアルなモノを売る商売は別に考える。売っているものが情報ではないので、彼らはメディアとはいえない。小売業である。ここでいうメディアの定義は「多くの人たちに情報を提供することで、カネを稼ぐ」という商売を指す)

新聞・テレビ・雑誌・書籍の伝統的メディアは、(1)広告 (2)購読料、の2つの収入に支えられてきた。メディアによって、この二つの収入の構成要素は違う。新聞や雑誌において、収入に広告が占める割合は、50%くらいかもしれない。日本の民放テレビは、100%広告によって支えられている。一方で、書籍は、収入の100%が購読料である。

多くの人たちに情報を伝える、という活動でカネを稼ぐには、結局、広告(読者にある種の情報を強制的に届けることに利益を見出す人がカネを出す)か、購読料(情報の消費者が直接カネを出す)かしかない。この2種類をどう混合させるか、という戦略はあるにしても、これ以外の収入に依存するのは難しい。

PC からみるインターネットの世界で、購読料を稼ぐのは非常に難しい。なぜなら、人々は PC の世界で無料で情報にアクセスできる、という事実に慣れすぎているからだ。そのためにコンテンツを売りたい人たちは、購読料が技術的に払いやすく、かつ払う習慣がまだ残っている携帯電話の世界に殺到している。着メロを売る人たち、ゲームの中のアイテムを売る人たち、マンガを売る人たち・・・等々。どうしてこれが可能かというと、携帯電話の世界は、通信キャリアがすべてを決定するプロプライエタリな世界だからだ。参入が自由でないがために、競争が制限されて、超過利潤が生まれる。エンジニアにとっては、悪夢のような世界だが、スーツたちにとっては、通信キャリアが業界秩序を作ってくれるので、商売に見通しが立てやすい。

皮肉な話だが、PC の世界が自由すぎたために、ついに購読料ベースのウェブサービスが一般化しなかった。誰かが、あるコンテンツを10ドルで提供していると、脇からすぐに競合者がやってきて、5ドルに値下げしてしまう。情報複製の限界費用はゼロだから、そうやって経済学の理論どおり、価格がゼロに、限りなく近づいていく。

これは PC でも携帯電話でも同じだが、今日、非常に多くの人たちがインターネットを利用する。多くの人たちが訪れる場所には、広告を置くことができる。それは、駅構内の広告であってもテレビの広告であっても、本質は同じだ。だから、PC インターネットの世界でお金を多少なりとも稼いでいる人たちのほとんどは、広告収入に依存している。

では広告収入で稼げばいいだろう、と考えるかもしれない。ここにひとつ大きな問題がある。ページビュー(PV) あたりの広告料は非常に安いのだ。もし自分一人が専業で食っていこうと思えば、おそらく月に最低2000万PVくらい必要ではないか。ちなみに私のブログの PV は月に2万程度にすぎない。それでもTop Hatenar によると、はてなダイアリーで200位以内に入っている。普通の人間にとっては高すぎるハードルである。

広告にしろ購読料にしろ、このメディアビジネスの根本的な問題点は、供給過剰という点にある。すべての価格が需要と供給の関係で決定される。供給が需要より大きければ価格が下がる。要するにそういうことだ。あまりにも多くの人たちが、メディア業界に入り込んできている。多くの場合、自分がメディアビジネスに参加していることさえ知らずに・・・。無料のブログや Twitter のエントリは、コマーシャルなサイトと PV を奪い合っている。この状況では、メディア業界でカネを稼ぐのは、不可能ではないにしろ、非常に難しいように感じられる。おそらくきわめて偏った所得分配が観察されるだろう。つまり、メディアのプラットフォームを作る会社(Google など)はものすごく稼ぎ、その上で踊る個々の小メディアは、食うのがやっと、という状況にさらされるのではないか。

情報を売ることは、これから先、非常に難しくなっていく。