はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術

はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術

はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術」という、すばらしい本に出会った。これを読んで私がいままで悩んでいたことがすっきり整理された。


この本によれば、人はだれでも「起業家」「マネジャー」「職人」という相反する三つの人格を持っているという。そして常に人格全体を乗っ取ろうとせめぎあっているという。著者のマイケル・ガーバー氏は、いままで大勢の起業家たちに会ってきたが、そのうち本当に「起業家」タイプの起業家はわずか10%しかいなかったという。「マネジャー」タイプが20%。圧倒的に多いのは、残り70%を占める「職人」タイプであるという。


彼は、「職人」に経営を任せてはならない、と警告を発している。「職人」は自分が手を動かしてなしうることにしか興味を持っておらず、実際のところ客のことなどどうでもよいのだ。重要なのは「起業家」としての自分を伸ばし、「自分がいなくても回るビジネスを作る仕組み」を考案することだという。そのための一つの基準として、事業モデル自体が商品であるところのフランチャイズ展開ができるほどの精度で事業マニュアルを作ることが重要である。


マニュアルというと、四角四面に従わなければならない非人間的なものと想像しやすいが、著者によれば、これはむしろいままでの事業経験から編み出された智恵が文書化されたものであり、ソフトウェア開発の文脈でいえば「ベストプラクティス」と呼ばれるものに近いのかもしれない。


著者は、「職人に留まりたいなら、雇われ人を続けなさい」と冷たく言い放っている。まさしく、その通りだ。結局、こういうことなのだ。どんな仕事であれ、一人できることなど何もないという事実である。人間が社会的な動物であり、相互扶助を通じて他のどんな動物にも不可能な偉業を達成してきた。人が複数で働くのは、人間の本質であり、複数で働く以上、そこには必ず役割分担=組織というものが生まれてくる。だから、サラリーマンだろうが、フリーランスだろうが、社長だろうが、結局のところ組織の一員であることには変わりはないのだ。


組織なしの生産というのは、妄想にすぎない。すべての生産物は組織によって生産される。ただ、健康な組織(成長していく組織)と病んだ組織(停滞し衰退していく組織)との区別が存在するだけなのだろう。


いま自分に真剣に考えなければならないことは、「私は職人になりたいのだろうか?それとも起業家になりたいのだろうか?」という問いである。私は、職人(=プログラマ)として、大半の職業人生を歩んできた。私なりに工夫してソフトウェアを作り、その結果、顧客の喜ぶ顔を見るのが好きだった。しかし、組織のなかで、自分の職人としての能力を十分発揮できないことに苛立ちを隠せなかった。自分自身の会社をもてれば、もっとうまくやれるんじゃないか。私はそう思って、自分の会社を作った。


しかし、仮に私がよい職人であったとしても、私自身が提供できる生産物は量が限られている。この本がいうとおり、ビジネスとは、顧客へ提供する価値に関する約束(コミットメント)であるならば、私が一人で会社をまわす限り、顧客に提供する商品の品質を約束することができない。早晩、仕事量は私のキャパシティを大幅に上回り、納期や品質を守れなくなのは明白だからだ。


私は、やはり起業家になりたいのだと思う。この世界に新しい価値を提供したい。そうして、社会を変えて行きたい。そのためには、健康な組織を作る必要がある。顧客に価値を安定的かつ継続的に提供しながら、同時に適正な利益を確保すること。そのために、私は、これから事業の設計図を書いていきたい。