アメリカビザの現状

ビザとは

ビザとは、外国人の入国に必要な入国許可申請証明の一部である。(wikipedia「査証」) 本来の意味は、入国の可否の判断材料となる通行手形のようなものであり、滞在許可とは異なる。だが、俗には、滞在許可を含めて、外国人の入国・滞在資格を証明する公的な書類という意味で使うことが多い。以下では、この通俗的な意味においてビザという言葉を使うことにする。

人が外国で滞在するとき、命の次に大切なものは何か。それはビザである。どんな異質な国でも、言葉が通じなくても、しばらく住んでいれば気心の知れた現地人が現れるものだし、そうした縁で仕事先も見つかったりするものだ。しかし、たとえ現地人がその外国人を雇いたくても、就労可能なビザがなければ話にならない。そして、ビザを発行するのは入出国管理行政という巨大な官僚機構であり、血も涙もない。これが、21世紀の人類が置かれたある種の非人道的な状況である。

私は、カナダで永住権を取るとき、涙が出るほどいろいろつらい思いをした。であるから、ビザに関してはトラウマに近い思いがある。今回アメリカに行こうと思うとき、いちばん気鬱だったのはこのビザの問題だ。

しかし、愚痴っていても始まらないので、とりあえず現状確認から入ることにしよう。(以下の説明は概略であり、不正確である可能性が高いので、正確な情報はアメリカ領事館のウェブサイト等をあたってほしい)

情報ソース

短期就労ビザ
在日アメリカ大使館ウェブサイトによる短期就労ビザに関する解説。

俺たちの起業
アメリカで起業する2人の日本人青年の物語。アメリカでのベンチャービジネスの雰囲気がよくわかる。ビザ取得に苦労した話もある。

ビザの種類

アメリカのビザには大きくわけて2種類がある。永住を目的とする「移民ビザ」と用事が済んだら帰国することを前提とする「非移民ビザ」である。ふつう、まず申請するのは「非移民ビザ」である。「非移民ビザ」にもいろんな種類がある。とりあえず私の今回の目的「アメリカで技術者または経営者として働く」という目的に合致しそうなものを抜き出してみた。

まずは、上の在日アメリカ大使館のサイトの説明が簡潔にまとまっているので、引用する。就労可能なビザとしては H, L, E の各ビザがある。

最も一般的な非移民就労ビザのカテゴリーには、次のようなものがあります。

* 短期就労ビザ (H)  - あらかじめ定められた専門職または高度な技能に基づく短期間の雇用または米国で不足している労働者の短期的な補充または雇用主による研修のためのものです。就労または研修には、将来の雇用主が提出した請願書に基づく米国の移民局の事前承認が必要です。


* 企業内転勤者ビザ (L-1)  -  企業内転勤者ビザの区分にりより、複数の国で事業を行なう多国籍企業が管理職・幹部社員を米国に転勤させることが可能になります。雇用主は、ビザ申請書の提出前に、まず米国の移民局から社員の転勤の承認を得る必要があります。


* 貿易駐在員・投資駐在員ビザ (E-1およびE-2)  - 米国が通商航海条約を結んでいる国に国籍があり、主として米国と条約国間のサービスや技術に関して相当額な貿易を行なうこと、多額の資本を既に投資している、または投資のプロセスを進めている事業の展開や監督のために渡米しようとしている人に非移民条約貿易商・条約投資家ビザが発給されます。

日本人へ対するビザ免除プログラム(visa waiver)では、90日までしか滞在できない。就労はできないが「短期商用(B-1)」というビザを使うと、連続6ヶ月まで滞在が可能になる。

以下にそれぞれのビザについて詳説する。

短期就労ビザ・特殊技能職 (H-1B)

H-1B: H-1Bは、特殊技能を要する職業に従事する人のためのもので、建築、工学、数学、物理学、医学・衛生、教育、経営学、会計、法律、神学そして芸術などが含まれます。H-1Bを取得するためには就労認可が求められる特定分野での学士あるいはそれ以上の学位が必要です。H-1Bの典型的な例としては、外国の教授を米国の大学が教授として招聘する場合、または米国企業が新たな複合ビルの設計と監督を行なうために外国の建築家を招く場合などが挙げられます。

アメリカで IT 系の仕事をしたい人が真っ先に考えるビザがコレ。王道である。就職先の企業にスポンサーになってもらって、取得する。しかし、現在はビザ発給数が 65,000 と厳しく制限されており、取得困難な状況。2008年度(2007年10月 1日〜2008年9月30日の就労開始)の受付開始は2007年4月1日で、申請期間の初日に120,000を超えるH-1Bビザの申請を受領し、無作為の抽選を行ったという。2009年度(2008年10月 1日〜2009年9月30日の就労開始)の受付開始は2008年4月1日。つまりあと1週間後。おいおい、あと1週間じゃ無理だよ〜。

企業内転勤者(L-1)

これは、アメリカ大使館サイトの説明がわかりやすいので、引用する。基本的に多国籍企業アメリカ支店で働くときに必要なビザである。駐在員のためのビザと言ってよい。

多国籍企業の社員が、米国内の親会社、支社、系列会社、子会社へ転勤する場合は企業内転勤者(L-1)ビザが必要です。多国籍企業は米国もしくは米国外の会社双方に該当します。

L-1ビザの申請者は次の条件を満たさなければなりません。


* 管理者または役員であること、もしくは専門知識を有し、米国の会社でそれらを要する職務に従事すること
* 申請者は転勤を命じる米国外の組織で過去3年のうち少なくとも1年間勤務してきたこと、また申請者は米国において同一の雇用主または系列企業に勤務することになること
* 米国での雇用主が申請者のためにLビザのための請願書I-129を移民局に提出し、許可されたこと


L-1ビザは、米国で仕事をする社員が利用できるビザの1つです。ケースにより、多国籍企業は社員の転勤にB-1、H-1、H-2、E-1またはE-2ビザを申請することもできます。多国籍企業の幹部・管理者には複数の種類のビザに該当することがしばしばあります。


事務所設立:  L-1ビザは米国に親会社、支社、系列会社、子会社を設立する目的で渡米する多国籍企業の駐在員で、申請の条件を満たす方も対象となります。請願書を提出する際、多国籍企業は新しい事務所物件が実際に確保されていることや、請願書の許可を受けてから1年以内に役員あるいは管理職が予定される米国での業務に就くことを証明しなければなりません。専門職の場合、雇用主はその専門職に報酬を支払うための、また、米国で事業を始めるための財政能力があることを証明しなければなりません。申請条件を満たす新しい事務所の駐在員のための請願書が許可された場合の期間は1年を超えることはありません。その後は請願書の内容通り適切に事業が行われていることや、申請者の米国滞在が1年を超えることを請願者は証明しなければなりません。

私は、日本で株式会社ソフトカルチャーという会社を所有している。そのアメリカ子会社を作れば、そこに駐在員として勤務するために L-1 ビザが取れるのだろうか?うーん、何か落とし穴がありそうだ。とりあえず雇用主が米国移民帰化局(USCIS)に I-129 という請願書を提出することになっているので、そのフォームをシゲシゲ見れば何かがわかるかもしれない。

投資駐在員(E-2)

アメリカ大使館サイトによれば「貿易駐在員(E-1)ビザと投資駐在員(E-2)ビザは、日米両国間で締結されている通商条約に基づいて承認されるものです」とある。ネットをいろいろ検索したが、その中で E-2 ビザのほうが比較的取りやすいらしい。E-2 ビザとは何か?

投資駐在員(E-2)ビザを取得するためには次の条件を満たさなければなりません。


* 申請者は条約国の国籍であること (9 FAM 41.51.3参照)。
* 投資がすでに行われている、あるいは投資過程であること (9 FAM 41.51 N8参照)。
* 投資家は資金の主導権を握っていなければならず、その資金は損失を伴う恐れのあるものでなければならない。投資した資産を担保にした借入金は認められません (9 FAM 41.51 N8参照)。
* 投資は実態のある企業へのものでなければならない。投機的または消極的な投資は該当しません。銀行口座内の使途不明確な資金や同種の担保、保証金も投資とは見なされません (9 FAM 41.51 N10参照)。
* 投資が相当額であること。その会社を順調に運営できるための十分な額でなければなりません。投資先の企業が小規模の場合、大企業への投資と比べて、出資比率が高くなければなりません (9 FAM 41.51 N10参照)。
* 投資はようやく収支が賄う程度の小規模のものではならない。その投資は投資家と家族の生計を支えるために必要な金額をはるかに上回る収入をあげなければならない。あるいは、米国に著しい経済効果をもたらすものでなければなりません (9 FAM 41.51 N11参照)。
* 投資家はその企業を促進、指揮することを目的に渡米しなければならない (9 FAM 41.51 N12参照)。
* 申請者が投資家本人でない場合は、管理職または役員あるいはその会社に必要不可欠な知識を要する職種として雇用されなければなりません (9 FAM 41.51 N12/N14参照)。
* 申請者はE-2としての資格が終了後、米国を離れる意志があること。 (9 FAM 41.51 N15参照)。

「投資はようやく収支が賄う程度の小規模のものではならない。その投資は投資家と家族の生計を支えるために必要な金額をはるかに上回る収入をあげなければならない。あるいは、米国に著しい経済効果をもたらすものでなければなりません」というあたりに、この E ビザの趣旨が伺える。要するにアメリカとしては、投資をしてもらって国を潤してもらおうということなのだ。ならば、アメリカ人をガツンと雇うようなある程度の規模の企業が来てもらわないと意味がないわけだ。もし、私が投資家を巻き込まずに一人でやるとしたら、ちょっと難しいかもしれないね。

商用ビザ(B-1)

商用ビザ(B-1)では、就労はできないものの、1回に最長6ヶ月まで滞在できる。(かならず6ヶ月というわけではなく、入国審査官が決定する) 便利に見えるが、日本のようにビザ免除プログラムがある国民には、なかなか発給されないという噂を耳にする。

アメリカ大使館のサイトによると概略は以下の通り。

米国を源泉とする給与、またはその他の報酬の受領を伴わない商用を目的として渡米予定の渡航者は商用ビザを申請できます。ビザのタイプは「B-1」です。
...
商用ビザは、販売、ボランティア(奉仕活動)、修理技術者、講演者・講師、会議出席、研究者、投機的事業、医学研修、在宅勤務に該当します。

おそらく「販売」「ボランティア」...と細かく滞在目的が但し書きされたうえで、ビザが発給されるのだろう。あれ「在宅勤務」って何だ?

在宅勤務: 米国外に本社を置く企業のためにコンピュータープログラマーとして在宅勤務をする目的で米国に一時的に滞在する方で、下記条件を満たす場合はB-1ビザに該当します。


* 米国外の会社で雇用されていること
* 滞在に必要な経費以外に米国を源泉とする報酬を受けないこと
* 専門分野の学士またはそれ以上の学位を必要とする仕事に従事している方や同等の教育を受けている方

おおー。コレは結構いけるかもしれない。ただ、「専門分野の学士またはそれ以上の学位を必要とする仕事に従事している方や同等の教育を受けている方」というのが引っかかる。カナダもそうだったが、英語圏の人間は、どこの大学かというのは気にしないが、どの学部かというのは大いに気にする人たちなのだ。私は、経済学部卒業なので、コンピュータプログラマの専門教育がないと文句を付けられそうだ。(実際、カナダでもそれであやうく永住権申請を却下されそうになった)やれやれ〜。

感想

私が、アメリカで就労ビザを取るのは、現状ではなかなか難しい感じである。もうちょっと調べて、アメリカ移民法に詳しいコンサルタントや弁護士に相談してみるつもりだ。

アメリカは、2001年9月11日の NY 同時多発テロ以降、外国人へは厳しい移民政策を取ってきた。特に悪評高いのは H-1B の割り当て数の削減だ。これをされて一番困るのはアメリカのハイテク企業である。ビル・ゲイツも H-1B の発給数の増加をアメリカ議会に対して求めているアメリカの IT 企業の活躍の裏で、アメリカは「パラダイス鎖国」の度合いを深めているのかもしれない。とすれば、分裂君のような「Jシリコンバレー構想」はまさしくいまがチャンスだと思うのだが。そんなに機敏に動ける政治家が日本にはいなさそうなのがさびしい限りである。