必要なのは「日本企業」ではなく「日本人を雇ってくれる企業」
読んでいて心が痛くなってきた。
「正社員採用、10年度なし」47.5% 働くモノニュース : 人生VIP職人ブログwww
若者たちの阿鼻叫喚が聞こえる。なぜ自分たちがこんな目に遭わなければならないのか、と。生まれてからこの方いい事など何もないと。彼らは私が歩んできた人生よりよほどつらい道をたどっているのかもしれない。私に偉そうなことを言う資格はないのかもしれない。
私は1989年4月に東京の大学に入った。バブルが頂点に達していた当時、日本経済はこの世の春を謳歌していた。東京の大学生には割のよいアルバイトがそれこそ掃いて捨てるほどあった。当時の大学生のカップルたちは、そうやって稼いだカネで、クリスマスイブは高級レストランで食事をしたり、高級ホテルに泊まったりした。日本経済が歴史的絶頂期にあるときに、経済学を学ぶことができるとは、なんてすばらしいのだろう、と思った。自分の人生が未来に向かって、洋々と開けている気がした。
私は、日本人に希望と自信があふれていた時代を知っている。その時代に実際に生き、働いてきた。困難があってもなんとかなるさ、といま思えるのは、当時アルバイトが見つけやすかったという成功体験からかもしれない。いまでも、アルバイトはあるのかもしれないが、当時より確実に条件は悪くなっているだろう。
私はいぶかしく思っていることがある。この2年半で円は120円から90円へ30% 以上高くなった。昔はこういうことがあると、輸出産業を中心に財界をあげて「円高をなんとかしろ!我々の利益が吹っ飛ぶ」と大合唱したものだ。しかし、いまはそういう声はあまり聞こえてこない。
製造業の大企業は世界中に工場を持っていて、そうした世界各地の現地法人の決算をすべて連結して会計報告する。こういう状況で円高は複雑な効果をもたらす。海外法人の利益を円に換算するときにその数字が減るという意味ではよろしくない。しかし、海外で生産した部品を国内工場で使ったり、輸入した完成品を日本市場で売る場合には、円高はむしろありがたい。トヨタやパナソニックなどは、日本企業の顔をしていても、世界中で生産し世界中で販売する世界企業になりつつあるわけだ。米ドル/円の為替レートが唯一の懸念材料ではないのだ。(むしろ、米ドル/人民元の為替レートのほうが影響が大きくなりつつあるのかもしれない)
中国南部の日系企業の活動に詳しい石水智尚氏によると、製造業は以前から「国内工場の赤字を、アジア工場の利益の補填で生き延びてきた」という。日本の製造業者たちにとって、日本国内の工場はむしろ負担になりつつあるのかもしれない。日本市場が縮む中、日本の人件費はアジアに比べて非常に高い。彼らにとって日本で生産を行う利点はなくなってきているのかもしれない。若者たち、とくに工場で働く高卒の人たちにとって、日本の労働市場はこれからも冷えきったままになる可能性は高い。
若い人たちにとって、働くことは重要だ。仕事を通じて、自分たちの足で立ちこの世を生きていける、という自信を獲得していくからだ。若者たちに明るい未来を与えるためには、彼らのために新しい雇用を作り出さなければならない。もし、外国企業が経営のふるわない日本企業を買収して、その結果、若者の雇用が増えるならそれで何の問題もないと思っている。たとえその外国企業が中国や韓国の出身であるとしても。若者たちが起業しやすい環境ができれば理想的なのだが、これがいまの日本では正直かなり難しい。
若い人たちは、そろそろ中国に働きにいくことを真剣に検討してもいいかもしれない。中国語は英語よりずっと取っ付きやすいし、中国の大学の語学コースで中国語を勉強しているうちに、中国での就職先を見つけるのはそれほどむずかしくないだろう。日本円に変換した金額ではまだ給料は多くはもらえないが、生活費は安いので、東京で安月給をもらうより生活は楽なはずだ。成長を続ける地域というのはいろんな機会が見つかるし、意欲的な人たちにもたくさん会える。これは、お金には換算できない大きな利点だろう。
いまの日本経済の矛盾を若者たちが一手に引き受ける格好になってしまっている。若者たちは未来の希望ではないのか。少子化が進み、ますます若者が希少種になる中で、むしろ若者を虐待している結果になっているのは、皮肉な話である。日本がこれ以上希望を失わないために、私たち大人は、日本の若者たちに未来につながる仕事の機会を与える方法を考え続けるべきじゃないだろうか。
(追記)
ベトナムの若者たちの失業率は低そうである。ちょっとでも優秀なら外資系企業がこぞって雇用するからである。優秀な若者が月給5万円で喜んで働いてくれるなら、企業も嬉しいだろう。日本の若者が失業に苦しむ中、ベトナムの若者たちが着々と職歴を重ねて行くのを、私は複雑な気持ちで見ている。いまの日本の若者たちは、円高の犠牲者なのかもしれない。