太陽光発電+合成石油の可能性(その1)

私は、最近、エネルギー問題を調べることが楽しくてしょうがない。なぜかというと無数の技術が研究されているからだ。エネルギー源が変化すれば、経済構造も変わる。

未来は当然、誰にも分からない。どんな客観性を装った未来予測も、どこかしら「こうなってほしい」という希望を含んでいるものだ。従って、私がこれから述べることもそういう私の主観が含まれていることは理解してほしい。ただし、数字はなるべく信頼出来るものを集めたつもりだ。

この記事では、1)太陽光発電の可能性 2)化石燃料の未来 3)再生エネルギー貯蔵手段としての合成石油(炭化水素)という構成で、ありえるかもしれない一つの未来、を描き出していくつもりだ。

まず今回は太陽光発電の可能性について述べる。

太陽エネルギーの存在量

Wikipedia によると、地球に照射されている太陽光の全体が180PW(ペタワット)、そのうち人類が利用可能とおもわれる量が1PWあるという。それに対して、現在の人類全体が消費しているエネルギー量はわずか20TW(テラワット)しかない。つまり利用可能な太陽光は、現在の人類の消費エネルギーより一桁多いということになる。人類の人口が今世紀中には100億人で頭打ちになること、エネルギー利用効率はますます上がりそうなことを考えれば、当面十分なエネルギー量であるといえる。

太陽光発電のコストは下がり続ける

太陽光発電のシステム価格は過去30年間、年率7%の速度で下がり続けてきた。これは10年で単価が半額になるペースである。「太陽光発電版のムーアの法則」ともいえる価格の指数関数的低下である。Wikipedia は、日本でも家庭用の電力とコストが等しい(23円/kWh)というグリッドパリティに達しているという。今のペースが続けば、10年後(2022年)には、単価が半額の12円/kWh になる計算である。NEDOのロードマップ (PV2030+) の2030年の目標 10円/kWh は控えめすぎるかもしれない。

再生可能エネルギーコストの計算式

太陽光発電を始めとした再生可能エネルギーの特徴は、初期投資が大きく、ランニングコストが極めて低いという点である。化石燃料を使った発電のコストが、主にランニングコスト(燃料費)であるのと対照的である。そこで、再生エネルギーでは、初期投資を長期間に均して回収することを考え、このコストを LCOE (levelized cost of energy, 均等化発電原価)と呼ぶ。NREL(米国再生可能エネルギー研究所)の公式を単純化したものを示す。

LCOE = (1kW 当たり初期投資額 * 資本回収係数)/(8760 * 設備稼働率)

ここで、設備投資額の通貨単位が円なら、LCOE の単位は円/kWh となる。8760 = 365 * 24、つまり1年に含まれる時間数である。NREL の公式を変形する際、再生可能エネルギーの維持費を省略した。圧倒的に初期投資額が大きいので、維持費に関しては、とりあえず無視してよいと考えたからだ(太陽光発電の場合は、パワーコンディショナーの修理・交換が定期的に維持費として発生する。維持費は、初期投資の10%程度に考えておけばおそらく差し支えないだろう)。

上の公式を直感的に理解できるようにもうちょっと解説する。

資本回収係数とはなにか?これは住宅ローンの返済金額を計算するのに使える係数である。1000万円を複利3.5%で借りて、20年で毎年定額ずつ返済するとしたら、毎年の返済額はいくらになるだろうか?利息とともに元本も少しずつ返して行かなければならないので、たぶん残っている元本の3.5%より少し多い金額が返済金額になるであろう。資本回収係数は、金利に似た数字で、それよりちょっと大きいものだと考えてよい。ちなみに、上の金利 3.5 % で、20年で返済というケースでは、資本回収係数は約0.07 となる。つまり、毎年1000 * 0.07 = 70万円ずつ返済しなければならないということになる。

そう考えると、(1kW 当たり初期投資額 * 資本回収係数) は投資コストを毎年に均等に配分したものであることがわかるだろう。

分母の(8760 * 設備稼働率)は、1年間で設備が実際に使われた時間だ。太陽光発電の場合は、稼働率は、日本では12%と言われる。世界のもっと条件のいい場所では20%を越える。上の式は、あくまでも 1kW の設備について考えているので、1年間に(8760 * 設備稼働率) kWh の電力量を生み出すことになる。

つまり

LCOE = (1kW 当たり初期投資額 * 資本回収係数)/(8760 * 設備稼働率) = (1年あたりの投資コスト) / (1年間の発電量)

となる。

もういちど上の公式を見なおしてみる。

LCOE = (1kW 当たり初期投資額 * 資本回収係数)/(8760 * 設備稼働率)

LCOE は、初期投資が少ないほど小さい。これは当然だ。設備稼働率が高いほど小さい。これも当然だろう。資本回収係数が小さいほど小さい。資本回収係数は金利が低いほど小さく、回収期間が長いほど小さい(借金返済を考えてみるといい。20年返済より30年返済のほうが毎年の返済額は少なくなる)。

太陽光発電のコストと気軽にいうけれども、実はそれほど簡単に計算できないことがわかるだろう。

太陽光発電のコストを実際に計算してみる

現実的な試算をいくつか行なってみる。

太陽光発電向けの融資金利は、2-3%程度(例:紀陽銀行のソーラーローン)。とりあえず金利は2.5%としよう。

業界でほぼ一番安い楽天ソーラーのシステム価格(工事費込)が補助金抜きで36万円/kW 程度。これをシステム単価として想定する。

これを20年で償却するものとする。

計算結果は以下のとおりである。

金利 回収期間(年) 設備稼働率 1kW当たり初期投資金額 資本回収係数 LCOE(均等化発電原価)
0.025 20 0.12 360000 0.063 21.7

(資本回収係数 は金利 r, 回収期間 n として、 r * (1/(1-exp(-r * n)) で計算)

つまり、この太陽光発電システムの原価は21.7円/kWh ということになった。これは家庭用電力価格 23円/kWh よりすでに安い。グリッドパリティを達成している(現実には維持費が発生するが、それによってコスト1割増としてもほぼグリッドパリティである)。

山梨県・高知県・宮崎県のように、日照に恵まれた県では、稼働率は14%くらいを期待してもよいだろう。その場合は、他の条件が同じならば、LCOE は 18.6円/kWh となる。やはり日照の多い場所は有利である。

また、太陽光パネルは実は、20年以上使えるという説が有力である20年前に製造されたパネルが高い効率を保ち、保証をつけて中古品として販売されている例もある。仮に30年、40年使えるとしてコストを試算すると次のようになる。

金利 回収期間 設備稼働率 1kW当たり初期投資金額 資本回収係数 LCOE(均等化発電原価)
0.025 30 0.12 360000 0.047 16.2
0.025 40 0.12 360000 0.039 13.5

30年使う前提なら16.2円/kW、40年なら13.5円/kW である(もちろん長期間使う場合はその分維持費がかさむので、現実のコストはこれらより少し高いだろう)。40年使った場合のコストは、産業用電力(13円/kWh)ともほぼグリッドパリティとなる。

結論

太陽光発電のコストは、2012年の現在時点で、保守的に見積もっても日本の家庭用電力価格とほぼ等しいグリッドパリティを達成している。だがコスト計算は、金利・回収期間・稼働率等のいろんな条件に依存しているので、一筋縄ではいかない。太陽光発電が、果たして20年しか使わない前提でコスト計算してよいものかどうかは大いなる疑問だ。実際には、30年・40年使えるという前提でコスト計算してもよいのではないか?(仮に20年しか使わなくても、中古市場が成立していて、それなりの価格で売れるならばやはりコストは安くなる)。仮に40年使うとすると、現時点でも安い産業用電力価格とほぼ肩を並べるレベルになる。

過去30年間、太陽光発電のコストは年率7%、つまり10年で半額になるペースで下がってきた。現在のコストを一番安い40年使った数字 13円/kWh で考えると、10年後には6.5円/kWh, 20年後には 3.3円/kWh になる。2030年頃には、太陽光発電は、幾多のエネルギー源の中で一番安い電源になるかもしれない。