トヨタが滅んで日本が本当に生き返るか?

トヨタのリコール問題は世界中に波紋を広げているようだ。

リコール:「トヨタが滅びれば日本が生き返る」 - livedoor ニュース

朝鮮日報(韓国の代表紙の一つ)はこう報じている。記事の中で、野口悠紀雄さんが、「日本経済は製造業を捨てて、高付加価値のサービス産業へ移行すべきだ」と持論を展開している。正論だと思うが、私は待ちくたびれてしまって、本当にこのさきそんなことが起こるのかどうか確信がもてない。

それより、

トヨタは日本を代表する企業だった。「ものづくり」(魂がこもった高度な製造能力)がもたらす高品質、「改善」や「ジャスト・イン・タイム(Just In Time=時間を守る)」といった言葉に代表される工程管理能力などは、日本の製造業の象徴だった。その象徴が、今回の大規模リコール問題で一気に崩れ去った。

朝鮮日報に言われてしまったのが痛い。実は同様の論調は、中国にもある。アジア諸国も騒ぎだしたのは、英語圏の言論の世界への影響力の強さをよくあらわしている。

もうずっと前から日本企業のブランドを背負った製品の多くが、すでに日本では作られないようになってしまっていた。中国、マレーシア、タイ、ベトナム・・・。それでも、世界中の人々が日本製品の品質の高さを信じて、同様の他国メーカー製品より割高な価格でも買ってくれていた。

私はしばらく前から、世界の人々の日本製品への信頼が傷ついて失われてしまうことを恐れていた。そうしたら、もう彼らは割高な価格で日本製品を買ってくれなくなるからである。

実をいうと、個人的にも少しショックなことがあった。先日、ベトナムでカシオの目覚まし時計を20万ドン(1000円)で買った。USCPA の勉強をするために、正確な時間を知りたかったので、高品質を期待してわざわざ高い日本製を買ったのである。(中国メーカー製なら、同じような目覚まし時計が200〜300円で手に入る)

ところが、買ってまだ1ヶ月も経たないのに、時計の針が大きく遅れるのである。その遅れたるや、一日に30分にもなるから、話にならない。この時計自体は、中国で作られた製品だとは知っていた。しかし、私は日本企業の品質保証能力を信じて余計にカネを払ったのある。裏切られたような気持ちだ。子供のころからカシオ製品には親しんできたので、悲しかった。

トヨタにしろ、カシオにしろ、本当にどうしてしまったのだろうか?

日本の製造業において優秀だったのは、工場で働いていた工員たちだった。彼らは、真面目で勤勉で細かいところによく気がつく、世界で最高の労働者たちだった。それに比べて、ホワイトカラーの能率は悪く、経営者も凡庸だった。しかし、優秀な工員たちが作り出す製品は、そうした欠点を補って余りあるものだった。

1980年代半ばから、円高が進行して、日本の工場が海外に移転するようになった。無能なホワイトカラーが切られずに、優秀な工員たちが切られたのは、なんとも皮肉だといえよう。そして、いま日本企業はその代償を払っているのかもしれない。

私は、ソフトウェアのオフショア開発に携わっていたのでよくわかるのだが、日本企業は供給業者に対して、「あうんの呼吸」を要求する。欲しいものを論理的かつ明確に文書で、供給業者に示すことができないのである。これは現地の供給業者を強烈に悩ませる。仕様変更が度重なり、従業員に大きな負担を掛けるからだ。

ひょっとしたら、強力なコスト削減圧力の下で、海外進出した日本企業の調達部品の現地化が進行して、日本企業が供給業者の管理に失敗しているのかもしれない。それが、製品の品質低下の一因なのかもしれないね。だとすると、日本の商習慣や企業文化と強力に結びついているので、なかなか問題の抜本的解決は難しい。

製造業を失い、ITや金融といったサービス業にも移行できない日本経済。まさに、前門の虎、後門の狼という感じである。